EMP 29期 修了生座談会

今回は29期の杉山文野さんにメンバーをコーディネートいただき、29期修了生の⽅々に、EMPを修了して約1年が経過した現在、EMPを通じて得た変化など、率直な感想を語り合っていただきました。

この記事は冒頭に会話のサマリーをお示ししたのち、できるだけ座談会の様子をそのままの言葉で伝える構成としております。

これからEMPのご受講を検討されている皆様に、EMPがどのような場であるかを感じていただける機会となれば、また、修了生の皆さんにおかれましても受講当時に思いを馳せていただければ幸いです。

■座談会サマリー

1. 問いを立てるという習慣——EMPがもたらした知的変容

参加者のみなさんは、EMPで培った「問いを立てる力」によって、会議や議論の場で積極的に発言できるようになったことや、職場でも表面的な問題解決にとどまらず、課題の本質を探求する姿勢が身についたと語り合いました。

2. 異分野との出会いが変える世界の見え方

量子物理やバイオ、社会、多様な宗教、哲学など、自身の専門外の分野に触れる中で思考の幅が広がったとのことです。特に講義を通じて「わからないことがあることを知る」ことや、多様な知への開かれた姿勢が育まれたことが共有されました。

3. マネジメントと対話——現場で起きた変化

EMPでの対話経験が、職場でのマネジメントに直結する例も。トップダウンから伴走型への転換、言葉の選び方や判断プロセスの変容が、組織運営において大きな変化をもたらしたと語られました。

4. つながり続ける学び——EMPコミュニティの可能性

修了後も続くネットワークや対話の場がEMPの価値のひとつ。縦横のつながりや大学を越えた連携への期待、地域現場での学びの実践についても語られ、学びが閉じたものでなく開かれたものであると語られました。

5. リーダーシップを再定義する——“知の倫理”とともに

リーダーシップとは「問い続けること」。社会の中で倫理的な判断を求められる立場として、EMPは、より広い視野を持って考え続ける姿勢の大切さを知ることができる場であったと語り合いました。

■座談会本編

長谷川:29期の長谷川です。日本郵船に勤務し、現在はグループ会社の京浜ドックで取締役を務めています。EMP修了から1年が経ち、特に役員として課題設定が求められる今、EMPでの学びが役立っていると感じます。
中でも大きな変化は、会議やセミナーの質疑応答で「最初に発言する」ことが自然になったことです。EMPで毎日問いを追い続けたことで、問いを完璧に立てられなくても、物怖じせず声を出せるようになったと実感しています。

染谷:染谷です。経済産業省から来ています。EMPには、1週間前に「出てみてはどうか」と言われて、急いで調べて申し込んだのですが、結果的に本当に良い経験になったと思っています。
国家公務員は2〜3年ごとに全く違う分野に異動します。私自身もデジタル、バイオ、そして今は自動車と様々な領域を担当していますが、EMPでも毎回違うテーマに向き合い、答えのない問いを考え続ける場があったのは、今の仕事ととても重なります。
積極的に発言すること、誰に対しても質問できることが自然とできるようになったのも、EMPで身についた良い習慣だと感じています。

向田:京都から来ています。EMPの期間中は毎週水曜の夜に京都を出て、土曜の夜に帰るという、ちょっとした放浪の旅のような生活を続けていました。東京で多くのつながりができて、世界が少し広がったような感覚があります。
学生時代から、実はあまり授業をきちんと聞くタイプではなかったのですが、EMPではポイントを押さえて質問しようと思いながら聞くようになって、今さらながらですが、そういうふうに授業を聞けるようになりました。
学会や講演会などで場がシーンとなったときにも、自然に質問できるようになったのは、EMPのおかげだと感じています。本当に、それが一番よかったことかもしれません。

野田: 第一生命ホールディングスで勤務しており、現在はグループ全体のデジタル化を推進する「ITデジタルユニット」で、責任者を務めています。
当社グループから東大EMPへ企業派遣されていることは知っていましたが、まさか自分が派遣の対象となるとは思っていませんでした。激しさとタフさは当社内の修了生から聞いており一瞬躊躇しましたが、得難い貴重な機会だと思ってチャレンジすることになりました。
EMPで自分が変わったこととして、、いかに早く解決するかという習慣が「そもそもその課題設定で合っているのか?」と立ち止まって考えるようになり、課題設定を問う習慣に変わったことです。今のチームでもこうした問いかけをするようになり、正直周囲からは「面倒くさい」と思われているかもしれませんが(笑)、問う習慣と文化が少しずつ組織に根づいてきています。
ただ、良くも悪くもこの習慣が質問の質にこだわるプライドにもつながって、少し動きが鈍ったような気もしますね。

長谷川:EMPには必ず質問する人とか、自分に絶対ないなっていう質問する人がいましたね。

向田:そうですね思考回路が違う人がいる。面白かったのは、質問者それぞれの切り口とか、思考の方法っていうのが、見えたらすごく勉強になったっていうか。今モデレーターをさせていただいていますが、別の期にも会社の中にもいないような方がたくさんおられます。
(モデレーターとは、EMPの修了生が講義の司会進行を務める役割のこと)

長谷川:自分の会社の中だけにいると、やっぱり同じような思考回路の人が多くなりがちです。でもEMPでは、出身母体も業種も違う人がいて、向田さんのように、会社を経営しながら現役で医師もされているような方とも出会える。普通のサラリーマンでは、なかなか会うことのない方ばかりでした。男女の多様性ももちろんありますが、それ以上に「本当に経営をしている人って、すごいんだな」と、何度も感心させられました。

向田: 医者って、やっぱり肉体労働者なんです。自分が現場にいて患者さんを診なければ、収入もありません。だから経営といっても、常に身体を動かしている感覚です。
私の場合、父が早くに亡くなって、まだ私も医学生だったので、一旦病院は閉じて他の方に経営をお願いしました。そういう意味では、医療法人の多くは“存続性”に課題を抱えていると思います。医師の高齢化も進んでいますしね。
EMPに参加して「自分はかなりトップダウンになっていたな」と気づかされ、反省するところが多くありました。自分が新たに設立したクリニックも問題を常時抱えていて、以前はスタッフが次々と辞めていくこともありましたが、EMPを受講してからは、明らかに人が辞めにくくなったと感じています。学びが確かに職場の変化につながっていると思います。

一同:それはすごい。

向田:EMPの後に伴走型のコンサルを雇ったんです。何か問題が起きたときに、以前は自分で直接伝えてしまってトラブルになることも多かったのですが、今はそのコンサルに相談して、「どう伝えればいいだろう?」と一旦立ち止まって考えるようになりました。
人にはいろんな受け取り方や考え方があるということを実感したので。

長谷川:言い方ですね。最近、ますます日本全体がそういう社会になってきている気がしています。つまり、コンプライアンスへの意識がどんどん強くなっている。
野田さんや僕の世代は、入社したころまだ“昭和的”な文化が残っていて、「俺についてこい」みたいな、いわば徒弟制度的な育てられ方をされてきました。会社は違っても、同世代の方と話していると、やっぱり同じような経験をしているなと感じます。
でも今の中間管理職は、それをそのまま部下にやるわけにはいかない。飲み会ひとつ開くにも気を遣う時代ですし、ちょっとした言葉が問題になりかねない。場合によっては訴えられるリスクだってあります。以前は「海外はそうだよね」と思っていましたが、日本も急速にそうなっていると実感しています。
だからこそ、間にコンサルを挟んで伝え方を工夫するというのは、すごく理にかなっているなと思います。

向田:そうしないと訴えられたり、すぐみんな逃げちゃう。

長谷川:でもやっぱり誰かが決めないといけないし、責任を取るのはトップです。その立場であることは間違いないのですが、その責任の取り方や、リーダーとしての「言い方」にはやはり気を配る必要があると感じています。
自分ひとりで考えていると、どうしても視野が狭くなったり、精神的にも追い込まれてしまうことがある。だからこそ、自分を映す“鏡”のような存在が必要だと思います。
たいていの場合、自分が一番そのテーマについて深く考えてはいるけれど、部下には部下の視点や見えている世界があります。そこに対して、どう受け止め、どう包み込むか。その包容力のようなものが、トップには求められているのではないかと感じています。

向田:今、どういう仕事の仕方をされていますか?私の場合誰かの上についてということはそんなにないので。

染谷:私の場合、担当している業務の幅がかなり広いです。ひとりである業界全体を見なければならないような場面も多くて、企業や研究者、経営者、さらには政治家とも関わりながら、さまざまな判断を迫られる仕事をしています。
私の所属している組織は、もともと「社会課題の解決」がミッションになっています。ただ、EMPに参加して感じたのは、すぐにソリューションを出すことだけが正解ではなく、「そもそもその課題設定は正しいのか?」という視点を持つことの大切さでした。
特に印象的だったのは、EMPでは答えのない問いが非常に多かったということです。宗教や戦争、技術など、どんなテーマでもみんなで質問し、先生も一緒に悩んで、最終的には「わからないね」で終わる。けれどその「わからないことがあるとわかる」感覚が、今の仕事にも活きていると感じています。
もちろん組織の中では、上司からの指示で動くこともあります。でも、それとは別に、自分の中ではもっと広い視野で物事を捉えるようになった。EMPを通じて、そうした考え方の変化があったのは確かですね。

——そういえば、1年経って、本、読めてますか?(笑)

長谷川:僕は、本を読むのが好きになりましたね。「読めるようになった」というよりも、習慣が変わったんだと思います。
というのも、10歳の頃から30年以上、毎週欠かさず読んでいた『週刊モーニング』が、EMPの課題図書の多さで読めなくなってしまって(笑)。気がついたら半年分たまってしまって、「もういいかな」と思って読むのをやめたんです。
その代わりに、本を読むことが自然と習慣になっていきました。週刊漫画から本へ。そういうのが変化かな。

野田:EMPを受けていたあの時期の自分って、もう再現はできないけれど、修了直後から少しずつ自分が“陳腐化”していってるような感覚があるんです。やっぱり、今のインプットって、時間も限られているので、自分の活動に関連する情報や興味があるものが中心になってしまう。あの時は、強制的にですが、あらゆる先端の知に触れ、多面的に物事を捉え考えることができていたと思っています。だた、中には、正直、日本語でも何を言っているのかわからないような講義もあって、捉えることすらできないこともありましたけどね(笑)。
それでも、あの場で徹底的に考えていた時間は、自分にとって“無かった部分”が刺激されて、成長していたような気がします。そしてその時間が終わり、少しリバウンドしたような感覚になっていますね。

向田:現実に引き戻された。ちょっと現実離れしたような感覚がありましたね。

野田:私も同じように、あえて違う領域、特にあの時全く関心もなかったけど講義を通じて興味をもった領域もかなりにあったたので、それを考え、掘り下げたり、またモデレーター活動を通じて問いを深めたりしたいなと。自分に刺激を与え続けていきたいなと感じています。

長谷川:モデレーターをやると、またそのテーマをもう1回やり直さなきゃいけませんもんね。確かにEMP現役の時は気づかないですが。

染谷:たしかに、モデレーターになるとすごくリラックスした気持ちで講義の事前打合せで先生方に質問していました。受講とは、違う雰囲気がありますよね。

野田:でも、モデレーターになっちゃうと緊張感もありますよね。事前に過去の講義を振り返ったり、資料を読み込んだり。本を読み込んで行かないと、担当する講義にもよりますが事前の打ち合わせで1対1で先生と対峙する時間もつるつるの壁を上るような感覚になって、結構きついなと(笑)。あの講義を彷彿させるっていうか。

向田:ところで、東大の教授は、他大学の教授よりも「社会にどう生かすか」を強く意識されていると感じましたね。サイエンスを突き詰めつつ、その先を見据えている。政府とのつながりもあり、資金も自分で取りに行く姿勢があります。
一方で他大学は、ノーベル賞がゴールのような雰囲気もあって、研究資金も「今年は科研費ダメだった」くらいの温度感のところも多い。そこに、東大との意識の違いを感じます。

長谷川:東大の先生って、多様性に富んでいますよね。だから、そういう人もいれば、学者肌の人もいれば、社会とのつながりもあったりというか。そんな先生とこんな近くお話できることは、とても貴重だと思うんです。

野田:染谷さんは東京大学を卒業されているじゃないですか。その時とEMPとの違いは何ですか?

染谷:大学の授業は、高校の延長のような感覚といいましょうか、私は法学部でしたが、400人ほどの大教室で講義を聞くだけで、質問もなく、ただ体系的な知識を学ぶというものでした。学生のときは、研究の着眼点もわからず、疑問もたくさんあったんですけれど。
でも、社会に出てさまざまな分野に触れた上でEMPに参加すると、自分の意志を持って学ぶ姿勢が自然と出てきましたし、質問も意識せずに出てくるようになっていました。
理系、といったらいけないのかもしれませんが、元々理系科目が苦手で、量子やバイオ、宇宙の講義など不安もありましたが、EMPでは技術に関する知識よりも「考え方」を問われる。それに気づいたことで、視点が変わり、大学のときとはまったく違う学びができたと感じています。

長谷川:染谷さんは最年少でしたね。

染谷:そういう意味で言うと、組織だと上司に当たるような年代の方、両親の年代の方と机を並べて対等な立場でコミュニケーションできた経験は大きかったですね。いいコミュニティだなと感じました。

野田:話は変わりますが、EMPは次世代のリーダーに向けたプログラムでしたね。プログラムが始まり最初の週に、日本のリーダーの立場で日本の成長戦略を考えよ、というお題があったじゃないですか。今は、我々はそれぞれ現場に戻って、あの時の感覚を少し忘れてしまったのかなと思うんですが、リーダーという目線で、修了後なにか変化はありましたか?

長谷川:本当にそれぞれの分野で最先端の人にお会いする機会があるじゃないですか。東大のすごい先生方はもちろん、例えば第一生命グループの会長のような方とも、あれほど近い距離で話せることは普通ないですよね。野田さんならともかく、外部の人間としては、表向きの話しか聞けないことがほとんどだと思います。
でもEMPでは、本当にトップに立つようなリーダーが、自分たちの目線に降りてきて話してくれる。そのときに、ただの肩書きではなく、その人の人間性や、「この人は本当に日本や世界のことを考えているんだな」という深さを感じることができました。
それはすごく刺激になりましたし、自分の悩みや考えていることが、いかに小さなことだったかと実感するような、そんな変化がありました。

野田:そうですね。29期の講義において、民間リーダー代表として当社会長の稲垣が登壇しましたよね。私は、ビジネスの現場で稲垣の経営者としてのリーダーシップに日頃接していますが、次世代リーダー育成という目線での講義、そしてそのメッセージは、私としてもいつもとは異なる感覚がありましたよ。

長谷川:やっぱり違いますよね。私も自分の会社で、前は社長の近くにいましたけど、まあ上司と部下だと、そういう天下国家の話をするにしても、飲み会の時は話してくれるんですけど、ああいう公の場ではあんなに真面目にやらないと思うんですよね。思考のプロセスのプロセスみたいな話をね。

染谷:そういう目線で言うと、国家戦略のような話だけでなく、EMPの講義を受けた人がすでに700人近くいるという事実自体に、すごさを感じます。
普段、企業の方とは仕事以外で関わることが少なく、企業を通してしか見えていなかったのですが、EMPでは大手企業の経営層の方々が目の前で講義を受けていて、それぞれ社会に戻っていく。そのようなイメージを持つと、なんだか希望が持てるというか、「いいな」と思えるんです。
EMPで学んだ思考のプロセスを身につけた人たちが、社会のさまざまな場所にいる。そう考えると、とても力強い感覚があります。

向田:うん。正直これまで少子化や国家戦略といったことは医者はあまり考えていなかったかなと思います。医療の現場では、環境配慮の話が出ても、結局はコロナで使い捨てが推奨されるなど、経済性や社会の流れとは切り離されたまま。そうやって現場だけで動いてしまうことで、結果的に今のような状況が生まれているのだと思います。
命はもちろん大切ですが、経済が破綻すれば命も守れなくなる。そこに目を向けなければならないと感じるようになりました。
EMPで最初に「2070年には日本は“大草原の小さな家”のようになる」と聞いて、本当に驚きました。人口減少のことも、厚労省の白書も知らなかったんです。その後、医者仲間に話しても反応は薄く、「そうなんだ」程度。社会とのつながりや視点の広さが、現場ではまだまだ欠けていると痛感しました。
先日、卒業30年の同窓会があったのですが、話題は「子どもを医学部に入れたかどうか」。でも日本の医療を支えているのは確かに彼らだし、だからこそ、もっと広い視点を持つ医師が増えてほしいと、強く感じました。

長谷川:山梨さんが「リベラルアーツをバランスよく学んでいる人の方が踏み外す頻度が低く程度が小さい。」と話されていたのが、今も強く印象に残っています。山梨さんがEMPに関わっている理由の一つがそこにあると聞いて、なるほどと思いました。
実際に決定権を持つ立場になると、誘惑も強くなりますし、「言わない方が会社のためだ」といった判断を迫られることもあります。でも、それをやってしまうことでコンプライアンスの問題や不祥事が起きてしまう。
社内だけの論理では通用しないことが、社会には多くあります。EMPのように多様な立場の人たちと接する場に身を置くことで、自分の言動がどう見られるのか、外の視点を意識することができるようになるんだと思います。
企業では「金がすべて」になりやすく、株価でしか評価されない世界の中で、キレイごとを語っても「儲かってなきゃ意味がない」と片づけられてしまう。でも、だからこそリベラルアーツが必要で、倫理や社会とのつながりを持っているかどうかが、トップとしての危うさを左右するのだと今、実感しています。

向田:だから私も伴走型のコンサルを雇って一緒にやろうと思ったんですよね。私が言うこと、私が発信することは全部見てもらって。

小笠原:ここまでのお話を受けて、EMPでは異なる常識を持つ人たちが集まり、自由に会話できる場であることが、大きな魅力と言えそうです。修了生においてもEMP全体としてもっと繋がりを活性化していけたらよいと感じますか?

染谷:たしかに、EMPってそういう環境なんだなと感じます。正直、受講後にこんなにいろいろなお誘いが来るとは思っていなかったので、驚きました。今はなかなか参加できていませんが、行こうと思えば行ける場所があるという安心感はあります。
それに、思考プロセスが共通しているからこそ、世代に関係なく交流できるのではないかと思います。アイデアベースではありますが、他大学の実験的なコミュニティとつながってみるのも面白いかもしれません。たとえば京大にも、そうした取り組みはありますしね。

野田:今期モデレーターを担当させていただいた甲斐 知恵子先生(東京大学 名誉教授、東京大学生産技術研究所 特任教授)は、歴代のモデレーターが半年に一度必ず集まる場があるんです。面白いのは、モデレーターたちが甲斐先生の研究が直面する課題を飲みながら共に考えたりするんですよ。先生を起点とした自然なつながりなんですよね。こういった形の関係が築けるのも、EMPにおけるひとつの魅力ですよね。

染谷:先日、EMP修了生内での公務員の会が3年ぶりくらいにありました。そうした様々な軸のつながりがあってもいいかもしれませんね。コロナ禍でリセットされたのかもしれないですし。

野田:会社の中でもEMP修了生のチャットグループがあるので、目に見えないつながりは結構あるかもしれませんね。

長谷川:ところで、先日会津若松と福島への研修旅行に、20人ほどで行ってきました。EMPの期間中、なかなか地方の現場に足を運ぶ機会がなかったのもあって、地域再生について「どうすればいいのか」という議論が何度も出る中、実際に現地へ行ってみたいという思いが強くありました。
ただ足を運ぶだけでは見えてこないものがあって、現地で本気で取り組んでいる方のお話を直接聞くことで、ようやく実感が伴ってくる。社会科見学で終わってしまうような浅い理解ではなく、「こういう人たちが、こんな想いでやっているんだ」ということに触れた瞬間、EMPの学びの本質を感じました。
仕事で地方に行くのとはまったく違って、本気の現場に、本気の人がいる――そういうリアルの大切さも確かに感じましたね。

野田:手触り感ですね。机上でやってる世界って大部分が見えてないっていうか、分かったつもりになるというか。

向田:先生方から「これだけタレント(才能)のある人が集まっているんだから、みんなで会社を作ればいいのに」と言われたことがあって。もちろん、実際に会社をつくるのは、みんな企業人ですし、現実的にはなかなか難しい。でも、もしかしたら先生方は本気でそれを期待されているのかもしれないな、と感じることもありました。

染谷:お金を使って何かをやるとか、プロジェクトを立ち上げることももちろん大事だと思うんですけど、それ以上に、EMPを受講した人がその後どうなったのか――その変化をちゃんと可視化していくこと自体にも、大きな意味がある気がします。
そうやって、一人ひとりの歩みを追いかけるだけでも、EMPの価値が伝わるんじゃないかなと思います。

向田:でも、やっぱりEMPが面白いのは、営利を追求しない場だからこそだと思うんです。これが本当に会社を作ってしまったら、きっとどこかで揉めるだろうなという気もしています。
先生方は教授という立場だからこそ、そういうところを含めて、私たちに託したいと思っておられるのかな、とふと思いました。
医学部でも創薬のような取り組みはありますが、自分のお金でやっているわけではありませんし、実際に責任を持って動かす人がいるかというと、なかなか難しい。そのあたりに対して、先生方は期待のようなものを抱いているのかもしれないと、感じることがあります。

長谷川:僕が感じたのは、アカデミアの「自由」を守るって、本当に大変なんだなということです。今はどうしても事業化モデルとか、予算の使い方みたいな方向に引っ張られがちですけど、EMPで出会った先生方は、どこか天真爛漫というか、子どものような無邪気さを持っている方が多かった。
でも、そういう先生ってもしかしたら、だんだん少なくなってきているのかもしれない。そこに対して、先生方自身も危機感を持っているのかなと感じました。

向田:例えば、この間モデレーターをさせていただいた加藤 泰浩先生(東京大学大学院工学系研究科副研究科長 エネルギー・資源フロンティアセンター教授)は、もうアカデミアから事業化されていますし。とてもひろい人脈をお持ちですよね。

小笠原:江田さんは今、エネルギー関連のコンサル会社の代表取締役をお勤めですが、EMPに企業人ではない立場で参加されたというか。その自費組の立場でこのつながりがあったからこういうことが出来たみたいなところとか、今後期待することとかってありますか?

江田:ひとつ感じているのは、視野がすごく広がったことです。物事を多面的に見られるようになったというのが、まず大きな変化だと思います。そして「何かを期待する」っていうとそれが義務になってしまう感じがあって。組織を維持しようとか、役割を果たさなきゃみたいな方向に行くと、ちょっと違うなと思うんです。
一番自然なのは、EMPで学んだことが意識しないうちに自分の中にあって、あるタイミングでふと判断を変えてくれるような、そんな存在であることだと思うんです。「このためにEMPがあったんだ」と決めつけないほうが、かえって意味がある気がして。
実際、今も自分が何かを判断するとき、きっとEMPに通わせてもらったことが影響していると思います。昔の自分なら選ばなかった選択を、今は自然にしている——そんな変化を感じています。

野田:講義の中では上司部下の関係でもないし、利害関係も全くないので、自分の考えていることとか思っていることを自由に表現できた。これがEMPの良さですよね。

小笠原:染谷さんがおっしゃった一人ひとりがどう変わっていったかを追うというのとつながりますね。

向田:ところで野田さんは仕事や部署の異動はありましたか。

野田:部署も仕事も変わっていないんですが、思考プロセスは明らかに変わったと感じています。この他、変化という意味では、EMPを通じて仲間が増えたことで、これまでにない機会も増え、自分の生活全体が豊かになったようにも思います。
更に、「考えるために書く」の課題では、ジャズトランぺッターのMiles Davisを通じてジャズを考えるというテーマで書いたんですが、小林康夫先生(東京大学名誉教授 哲学者)にボコボコされまして(笑)。でもそのおかげで、音楽との向き合い方も大きく変わった気がしています。
「そのCDのどの曲が好きで、なぜ好きなのか?」「Miles Davisはどういう思いでこの楽曲を作ったのか?その音に込められた意味は何なのか?なぜミュートを使うか?」——そんなこと、今まで考えたこともなかった。でも、そこにちゃんと向き合うことでまた違った世界が見えてくることに気づかされました。

向田:私も幼い頃、ピアノの先生にお花畑を思い浮かべながら弾きなさいって言われたことがあって、風景を想像しながら。

長谷川:剛さんが「考えるために書く」でジャズについて書いて、小林先生にボコボコにされているのを隣で見ながら(笑)、そのあと自分も思わずMiles DavisのCDを5枚くらい買ってしまいました。剛さんの講義を聞いて、「ジャズってすごいな」と改めて思ったんですよね。
自分だけでなく、EMPの仲間が大切にしているものに触れることで、自分の中にも変化が起きるんだなと実感しました。そういう経験があったからこそ、EMPはすごく充実していたと思います。
たぶん、あれがなければブルーノートに行くこともなかったと思います。存在は知っていても、あんなふうにみんなで行くなんて、EMPじゃなかったらなかった体験でしたね。

向田:確か染谷さんのお子さん生まれたのもその時でしたね。だってEMPの初日の時に今から結婚式二次会ですとか。

染谷:ちょうどEMPを修了してちょっとして子供生まれました。だから受講が決まった時は、これから僕ですか?みたいな。

向田:男の人にとって子供が生まれるってどのような感覚ですか?今度3月から来た男性のドクターもこの間、子供が生まれたばかりなのですが、すごく変化があって頭の中ぐちゃぐちゃになりません?

染谷:いや、なりましたね、驚いたことも多かったです。どうやって子どもを育てていくかということにも大きく影響を受けたように思います。
EMPではアートの話や、社会の中で何に価値を見出すかといった幅広い講義を受ける中で、「必ずしも勉強って必要なのか?」とか、「何を大事にすべきか?」という視点も持つようになって、選択肢の幅がぐっと広がった感覚があります。
子どもが生まれた時期とEMPが重なっていたので、正直その期間はかなり大変でしたね。

向田:やっぱり責任感って大きいですよね。うちのドクターも、子どもが生まれたことで変化があったようで、転職の理由も「学費などを考えて、もっと稼げる職場へ」というものでした。
一方で、4月に来る予定のもう一人のドクターは、「お金よりも時間が欲しい」と言っていて、それもまた印象的でした。男性の中でも価値観やメンタルのあり方が変わってきているのかなと感じます。
私たちの世代とはまた違う感覚があるのかもしれませんね。お二人とも30代前半のドクターです。

野田:統合演習では、最終的に「子どもの時間」をテーマにしました。実は、子どもの時間を奪っているのは大人なんじゃないか、という問いを立てたんです。
テーマがなかなか決まらなかったとき、家族みんなでバーベキューに出かけたんですね。そのとき「デジタルデトックスをしてみよう」と思い立って、スマホなどすべてのデジタル機器を手放してみたんです。すると、時間の感覚や子どもとの向き合い方について、いろんなことに気づかされました。
当初は「教育」というテーマから議論に入ったんですが、進学塾やテレビゲームなど、結局どれも大人が作ったものばかりで、子どもたちの本来の時間を奪っているのは大人ではないかと気づいたんです。
子どもの“人間としての成長”を大人が邪魔している。そんな危機感が芽生えて、「生きる力を持った子ども」を育てるには、時間のあり方そのものを見直す必要があるのでは、と強く思うようになりました。

小笠原:最後に本日の座談会についてメンバー選定をしてくださった杉山さんについて、同期のメンバーにおられたことで受けた影響などありましたら教えてください。

野田:ふーみん(杉山さん)の存在は、もちろん大きかったです。僕らの代は、全体で28人ほどいて、そのうち1/3が女性という、比較的女性比率が高い代でした。奨学生も2人いて、そういう意味では多様性に富んでいたと思います。
ふーみんは元フェンシング女子の日本代表で、今は父親でもありますが、彼の言葉で特に印象に残っているのが、初日の出来事です。
先生が「多様性」について話し始めたとき、ふーみんがすかさず、「このEMP自体に多様性がないのでは?」と問いかけたんです。多く参加者が企業から選ばれ集まっている、、男性が多い、東京大学の先生が中心、女性が少ない——そうした構造そのものを真正面から指摘していて、とても強烈でした。
あの発言をきっかけに、「自分たちも偏った存在なのかもしれない」ということを意識し続けなければならないことを深く考えさせられました。

長谷川:初日の印象的な出来事のひとつが、ふーみんが「“ふーみん”と呼んでください。呼び方は大事なんです」と言っていたことです。その言葉がとても印象に残っています。
僕らの代では、ふーみんと剛さんが飲み会の幹事をしてくださっていて、とりあえず「飲みに行きましょう!」という、素敵すぎる飲み会が何度も開催されました。

野田:たしか僕が参加しなかったのは、1回だけだったと思います。それくらい楽しくて自然な集まりが多かったですね。

向田:医学的な視点から見ても、本当に驚きました。声も体つきも精神も、堂々とした佇まいも。誰よりも“男っぷり”が良いというか、精神が体にこれほど影響するのかと強く感じました。もちろん、体には負担もあると聞きました。ホルモンによる負担は大きく、肝臓にも影響があるそうです。それでも乗り越えていく姿に、精神の力のすごさを改めて感じました。

長谷川:ふーみんの活動家としてのプライドも素晴らしいと思います。

■本日の参加者

染谷智之さん
経産省

野田剛さん
第一生命ホールディングス株式会社

長谷川唯我さん
日本郵船株式会社

向田公美子さん
医療法人司美会くみこクリニック 理事長

■座談会のコーディネーター

杉山文野さん
NPO法人 東京レインボープライド 理事

■記事・カメラ

江田健二さん
RAUL株式会社
代表取締役社長

小笠原弘樹さん
画家

■会場

生命株式会社 日比谷本店 Well-beingフロア


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