EMP 28期 修了生座談会

座談会シリーズ、今回は28期生の⽅々に、印象に残った講義、EMPを通じて得たものなど、率直な感想を語り合っていただきました。

■自己紹介

松田さん:富士フイルムの松田 周作と申します。仕事は企業活動の行政などへの渉外活動で、厚生労働省や経済産業省、内閣官房、外務省などの中央官庁および熊本県、富山県などの地方自治体とのコミュニケーションを行っており、会社の事業全般を見ている立ち位置です。EMPへは当社からほぼ毎期参加していて、私もその流れで選んでいただきました。EMPで学んだことは沢山ありますが、EMPを修了した当社経営陣の発言に、時折、EMPの思想を感じることができるようになったのも、EMPを経験した成果の一つかなあと思っています。よろしくお願いいたします。

志賀さん:私は三井物産の志賀 未雪と申します。うちの会社は私が初めての参加だったので人事の人も内容を十分に把握していなくて、「事務局の方が結構大変だって言われていますが、大丈夫ですか?」と言われて、「多分大丈夫です」と言って来てみたらとんでもなく大変でした!
会社ではカーボンニュートラル・脱炭素に関する事業開発をしています。その前のキャリアは、ずっと化石燃料の開発をやっていたので、真逆のことをやっていることになりますが、EMPで学べたことはとても良かったと思います。

北山さん:三井住友銀行の北山 剛です。私はSMBCに新卒入行しまして、国内法人営業や海外勤務も経験しましたが、キャリアの半分以上は人事の仕事をして参りました。現在は、これからのSMBCの人事制度や人事運用のあり方をめざし、いわゆる人事制度改革を考えていくミッションと、研修所のマネジメント業務を担っています。
EMPには、横山さんがうちの社外取締役をやっていただいていたこともあって、かなり初期から派遣させて頂いていました。仕事としてEMPへの派遣者を人選する立場だったので、EMPのとんでもない大変さがよくわかっていたのですが、上司から声をかけていただいて、覚悟だけはもって臨ませていただきました。

西川さん:西川 順と申します。もともとIT業界でペアーズというオンラインデーティングサービスの会社を作ってアメリカに売却し、もう一度会社を作りましたが現在は仕事をしていません。去年の年末にシンガポールへの移住を検討していましたが、いろいろな状況を見て日本に残ることになり、悩んだのですがこれまでと全然違うことをしようとおもって、EMPに参加することにしました。その時は色々と日本の大学院を探して、EMPが一番おもしろそうだなと思ったんです。ただ、想像していたものとは違って、とんでもない大変さでしたね。なんとか修了できてホッとしています。

長尾さん:長尾 祥浩といいます。会社はAGCです。20年近くガラスを造る工場に勤務した後、本社に移り、去年からサステナビリティ関係の部門が新設されたので、現在その部門に所属しています。そこから考えたこともなかったのですが、東大EMPに入らせていただきました。あるとき突然上の方から呼ばれて、トライしてみたら?と言われ、なんとか通ったという形です。当社からは私を含めて私で3人目と聞いていたのですが、入ってから検索機能で人物を特定するしかなくて、その方はヨーロッパにおられたので、結局何もわからぬまま入ってきた感じです。
EMP自体は、私はすごく楽しかったですね。学ぶ、勉強をここまできちんとするということが、これまでになかったので、すごく良い機会を与えてもらいました。なので今も絶好調です。

■面白かった・印象に残った授業。自身にもたらされた変化。

松田さん:まず純粋に学問としておもしろいと思ったのは、宇宙のことで、例えば岡村先生とか村山先生、あと、ノーベル賞の梶田先生のご講義です。なぜ面白いのかなと考えたら、あのウロボロスが結構印象に残っていて、10の二十何乗から10のマイナス二十何乗という50桁を超える幅なんて人生で1度も考えたことがなかった。また、時間のスケール感も全く感じたことがなかったのです。それだけ多くの人が一生懸命研究しているのに、5%ぐらいしか解っていないびっくりするような深い世界。自分自身、社会人生活を経て、ある程度モノの見方の範囲が広がってきたなあって実感していたけれど、宇宙のスケール感と比べたら全然広くないなと思ったんです。自分なりにモノの見方をもっと広げられるなという感覚を持てたのは宇宙のお陰だと思います。

長尾さん:私は理系だったので、文系の話題、みなさんは哲学の話とかされていましたけど、私は全く考えたこともなかったから、皆さんは何喋っているのですか?という感じからはじまりました。やはりディベートとかリキャップ(毎日の講義終了後で、受講生主体で行う振り返り)していていいなと思ったのは、藤原先生の戦争の講義の時に、戦争のことについて大人が語り合うって何かタブーみたいなものがある中、ここではそれをみんなで語りあえるんだ、この仲間だったらと思いました。そこは凄く心の中で変わったことでした。

北山さん:藤原先生の講義に対して、(運営側である)山梨さんご自身がコミュニティサイトにご自身の問いをいくつか投げかけられていて、そのことも今の話に通じるというか、山梨さんのようなご見識とご経験が豊富な方でも、ピュアに真摯に藤原先生の講義を受け止められているんだなって思いました。あの講義は結構最初の方にあったと思うのですが、EMPはこういうスタイルでやっていくんだな、面白いなと思いました。

私は哲学の講義が好きで、自分が大学1年の時に教養課程で出会った本が小林康夫先生が書かれた「知の技法」なんですよね。大学時代には直接先生の講義を受けたことはなかったのですが、あの小林康夫先生に教わる機会があるなんてと思いながら授業を受けましたね。全く最初は理解できず挫折しそうになりましたが、論文指導を受ける中で、常に親身に対応いただけたことはとてもよい経験になりました。

松田さん:小林先生と言えば、「自分の思っていることを完璧に言語化できた瞬間に涙が出た」と言われていたのが忘れられないですね。言語を探し、悩み続けて、そこに何かフッと降りてきたというか、その感覚って、私は全然経験したことないですけれど、確かに自分自身でも、相手に伝わらない、伝え切れてないって瞬間があるし、自分でもうまく言語化できてないって場面ってたくさんあると思うんですよ。今、何を考えているのか、どうしたいのかということを、丁寧に言語化していきたいなと思うきっかけになりました。

西川さん:授業内容ではないのですが、私が一番印象に残っているのは、グールプワーク、知の統合演習です。皆さんもつらかったと思うんですが、メンバーのバックグラウンドもモチベーションも違う中で、同じテーマで何かをやるってところまで持っていくというか。でもつらかったからこそ仲良くなれたのだとも思います。私は、経営者を十何年やっているので、戦略を自分で決めて、戦術に落とし込んで、社員たちとその目標を達成していましたが、知の統合演習では売上目標もなければゴールもないこと、誰が得をするのか損をするのかもわからないことをやるっていうことが本当に毎度不完全燃焼でした。いったいどこにゴールがあるんだろうって、やるのがつらくて、でもそれに対して山梨さんや他の先生方に言われたのが、「結論を出さなくても良い」ということだったんです。期限はあるから何かしらアウトプットを出さないといけないけれど最後の1日で全部変えたぐらいのことをやるっていうのは新鮮というか、すごく面白い体験でした。あんなことは仕事では絶対なかったことだと思います。リーダーシップを持っている人はいたと思いますがリーダーや意思決定者、決裁者はいないのですから。

北山さん:そうですね、みんなそれなりの立場にいる方なのですが、EMPのなかではフラットな関係になって、さらに先生と生徒がいるわけでもなく、その中で決めていくというのはかなり悩みましたよね。着地点の見えない中でひたすら言葉をひねり出して、議論して、みんなどうするかなって悩んで、どうやって合意形成をしたら良いものか思い悩んで。

長尾さん:合意していたのかな?

志賀さん:合意しないで進んでいましたよね?

松田さん:グループでは100時間くらい議論したと思いますが、終盤になって、最初の方に議論していた内容に一気に引き戻されるようなこともありましたよね。

志賀さん:私は今、課題の論文を出したばかりですが、EMPが終わって1ヶ月間、考えること書くこと、そして読むということを繰り返して、時間はかかりましたが、論文と知の統合演習、そして自分がこれからやりたいことがばっと筋が通ったので私なりにすごく達成感があります。
私は宇宙と哲学のことについて、自分の人生の中で全く触れなかった二つが、実はすごく近いものがあるということに気づいて、さらに私の中で宇宙になるというか。毎回小林先生や中島先生のお話を聞くたびに気づかされることがあって、今でも全然自分の中には落とし込めないビギナーな感じではあるのですが、素直にこの気づきを得たことは大きかったです。

松田さん:あと私は歴史もとても興味深くて、小野塚先生もおっしゃっていたのですが、今の私たちは必ず過去から継続していて、それは人類が紡いできた歴史もあれば、例えばエピジェネティックとか遺伝子的な歴史など色んな過去からの繋がりがあって、じゃあ、今を生きる僕たちは未来に何を残せるのだろうと。自分が今生きている価値というのは、実は瞬間のこのタイミングだけじゃなくて、何をこの先残せるのか、今何ができるのかなってことだなあって。こういったことを考えるきっかけになったのも、小野塚先生をはじめ色々な授業の歴史観や、その後のグループワークだったと思います。

長尾さん:そうですね。これまでヨーロッパの歴史観・価値観に染まっていることに気づかず、それが正しいとおもって生きてきましたが、アフリカの話でもヨーロッパの価値観を植え付けられて問題が起きていることとか、EMPの講義を受けるまでは考えもしませんでした。アフリカは、ヨーロッパに植民地支配される前は緩やかな集団を形成して営みを続けていたのが、突如ヨーロッパ諸国に植民地支配されて不自然な国境が引かれ、ヨーロッパの国家という概念が持ち込まれたことで、紛争や民族対立が起きるようになってしまった。本当に何が正しいのか自分でしっかり考え続けなければいけないと思うようになりました。

松田さん:西川さんは「考えるために書く」でもポトラッチ(北米太平洋岸の先住民の間で行われていた不定期の祭礼。先住民の部族が溜め込んだ食料、衣類、道具など全ての富を招待客に振る舞い、最終的には家屋に火を放つ。客人は文字通り裸一貫となった一族の清々しい姿を賞賛し、一族はゼロから新しい生活に踏み出す。格好良さ(礼)と評判(徳)が富よりも大きな意味を待つ社会での風習)を取り上げていましたが、なぜ感銘を受けたのですか?

西川さん:わたしは、富の再分配に興味があるのですが、先日、サンフランシスコに住んでいるアメリカの投資家と話していたときに、本当に治安が悪化していると聞きました。950ドル以下の窃盗は軽犯罪になったじゃないですか。それでスーパーとか本当に盗難が増えてしまって。そのアメリカの友人も先日、持っていたiPhoneを中学生くらいの女の子に盗まれたらしくて、そのくらい犯罪が横行しているんです。その原因は政策にもありますが、貧富の格差の拡大に政策が間に合っていない状況になっていて、私はいずれ日本もそうなるのではと思うんです。だから富の再分配をどうするかを真剣に考えなければならない時代なのではないかと。私の知人のいわゆる富裕層の方々には2パターンいて、そのことをとても危惧して財団作っている人もいれば、すでに我々は税金を億単位ではらっているので、使い道を決める国が悪いっていう人もいる。わたしはそれはちょっと違うかなって思っていて、もうちょっと何かできないかと思っていた時にポトラッチのことを知ったんです。全部無くしちゃえって、それって「Die with ZERO」という本の、死ぬ時にお金を持っていても仕方ないっていう考えに似ていて。そう思うとポトラッチの思想はすごくかっこいいなと思ったんです。富裕層があの価値観を持つことができれば、すごくかっこいいお金の使い方ができるのじゃないかなって。最初の頃の小野塚先生の授業で知って、すぐに小野塚先生に質問に行きました。私はポトラッチっぽい社会になるといいなと思っています。

松田さん:日本にもポトラッチみたいなものってありますかね、祭りとか、共生の世界とかそういう話題。

北山さん:結構コモンズの話題に行き着きましたよね。

志賀さん:確かに軸が社会的共通資本になりましたもんね。

北山さん:グループワークでは多くのチームが神野先生(神野直彦:専門は財政学)とディスカッションされていて、コモンズに注目されていました。私のグループもそうでした。多それはなぜだろうって興味深く感じました。社会的なコンセンサスの取り方について、示し合わせた訳でもないのに多くのグループがコモンズのような考え方を取り上げられて、最終発表で神野先生が何度もコメントを求められているのが印象的でした。

松田さん:社会的な歪みとかに気づいたときに、じゃあどこに次の一手があるのかなって。

長尾さん:資本主義が全て正しいと思い込んでいたのではないですか?

志賀さん:資本主義至上主義のような、私たちのメンバー的にも多かったのですかね?そこで急にみんなが逆に振れたのか、すごく貨幣貨幣といっていることは本当に貧しいのだなって気づいたんですよね。別にそう思って生きていなくても、全ての物の裏に貨幣的価値を見て、それが自分の何か軸になっていたのだろうなと、それはとても悲しいことだって思ったことが私には大きな気づきでした。

松田さん:本田先生もおっしゃっていましたが、少しでも偏差値の高い良い学校に行こうと受験戦争を勝ち抜き、一流企業に入り社畜のように働いている人々が、おそらく何も疑うことなく資本を求めている。しかも重大なのは考えていないということ。

北山さん:考えていないんですよね。

松田さん:だからこそ、EMPの授業を受けたことをきっかけに初めて考えてみた時に、みんなこの違和感に気づいて、これ違うなって言っちゃったのだと思うんですね。貨幣も時間もそうじゃないですか。私は工場の生産管理をやっていた頃、1ヶ月の4万3200分を何分稼働させると、どれだけの生産数量があがってどれだけの金額になるかって、まさに時間を金換算して、一分一秒をどうやって削るかっていう箱根駅伝みたいなことを真面目に考えて日々アップアップしていました。

志賀さん:その貨幣的価値を全く取っ払って、この研究がおもしろいからやっているんだよねって言われる先生方も沢山おられたから、それも衝撃的でした。宇宙のことを研究されている先生方とか、2100年になってもわからないと思うんですけどねと言われながら、すごく必死に今研究をされていて、すごく嬉しそうに宇宙の話をされていましたよね。なんという豊かさだろうと思って、こういうふうに自分のやりたいことを持てる子供を育てたいなって思いました。

松田さん:そのような豊かさという価値観は、iPhoneを盗んだ女の子から見たらどんな世界なのでしょう?貧困が原因だから貧困にならないようにしようといった、問題の裏返しで考えるのは違いますよね。じゃあどう対処するか。

■EMPが求める人材と、修了生の自覚について

長尾さん:いままでの考え方が正しいとおもっていたら、ずっとその延長にいてしまうわけですけど、いやそうではないと、今を疑うことができないといけないとおもいます。

西川さん:参加者には割と、利益の追求が必要な大企業の人が多いじゃないですか、というなかで29期からNPOの方も来られていますよね。多様生のある受講生。そして一番大切なのはもっと若い時にビジネスマンとしてではなくこの授業を受けることかなと思います。そうなるとたとえば学校の先生とか、若い人たちを教えている人たちが、こう言う考えを持てるといいのではないかと思うんですね。

長尾さん:先生というのはとてもいいですね。ただ下から変えようとすると、トップダウンと違ってかなり数を増やさないと影響が出にくいのかもしれません。

松田さん:出る杭は打たれる。その思想に一人だけ目覚めたとしても。

西川さん:ではわれわれがどうやって影響を与えられるかっていうことになりますよね。

志賀さん:そうですね。同じような考えの人としか触れないというのが一番問題だなと思います。一旦会社に入ってしまうと、同じような人とだけ生きてきて、企業が囲う部分以外のアップデートが全くされない。一方、世の中のいわゆる歪みの影響を受けやすい企業の枠の外の人は、より感じて、考えているんじゃないでしょうか。企業に囲われている人はアップデートされにくいのに、社会を担う割合も大きい。その我々がアップデートされず思考停止していては、様々な政策の真価も見出せず、結局世の中良しとする方向に動かずに頓挫してしまうのではないでしょうか。だから、今の政治と市民の分断を引き起こしている一番の問題は私たちなのかもしれません。我々の子供だったりその下の世代が同じように囲われる既得権益軍団みたいに世襲されていくと、多分国として体を成さないというか、すごく悲しい未来になると思うので。そして、東大はそういう社会を作っている一つのシンボルだと思います。その東大に今の私たちを変えなければならないと思ってEMPができたのであれば、すごく正しいのかもしれません。もう少し若く30代でうけるのもいいと思います。
こんなことを考えながら会社に戻ると、周りの人との考え方のギャップを感じてしまうこともありますが。

北山さん:企業の中でというと、EMPの非日常から日常に戻った時に何を行動としてやっていくかが大切ですよね。

西川さん:みなさんや今までに参加されていた先輩はどのようにされていますか?結構抽象度が高いことと低いことの行き来みたいなことじゃないですか。

松田さん: EMP修了生の当社の上層部は、社会課題の解決にビジネスがくっついているという考え方を持っているのですが、この度、EMPから戻って深掘りすると、企業活動を通してもっと世の中に役立つすべがあることに気付けたんです。例えば、既に社内で実施しているサーキュラーエコノミーの取り組みにもっと大きく投資して、新しいものを作るのを減らしましょうよとか、ちょっと頭の発想は変わってきている気がします。

北山さん:弊行もこの10月に社会的価値創造推進部が新設されました。明らかに経営トップは経済的価値の追求だけではより良い世界の実現はないだろうと思っていて、これはまさにEMP的発想だと思います。社会的価値だけを追求するわけにはいかないので、経済的価値との両輪ということかと思いますが。ただ確実に会社が変わってきていることを実感しています。

松田さん:大企業の良い面はビークルがとても大きいことだと感じています。社会を変えたいと強く願う人が、そのビークルを一回動かしてしまえば、ものすごく大きな力を生むことができる可能性があって、僕はそこにチャレンジしたいと思っています。ベンチャーにはベンチャーで良さがあって、社長の思いでこれだって決めたらすぐ動ける。大企業は動かしづらいけど、動かしたら強い。だから、我々卒業生一人一人がそうなっていって、場合によっては各社でうまく連携することで、社会を動かしていくようなことをやりたいですね。

西川さん:大きい会社が変わった時はインパクトが大きいから、それをどうやって社内コンセンサスを得て変わるかというところが鍵ですよね。スタートアップではすごいスピードでやることはできるけれど、それはすごく小さいコミュニティーなので、大企業の方達がどうするかっていうのが、日本の国民にとっては重要になってくるのではないでしょうか。

松田さん:小さいといっても、行動が起きているという事実は重要なので、逆にその行動に大企業やその構成員である我々が気づいていかないといけないと、今、強く感じます。

志賀さん:結構私たちの世代は、上の猛烈サラリーマン世代と、会社はそこそこ、自分がやりたいこととか、家族を犠牲にしてまでという価値観の下の世代の境目ですよね。私の同世代は、すごく出世を目指している人と、それを冷視する人に分かれている。でも下の世代と話すと、EMP的な発想にはすごく同調してくれるんです。だから会社の若者に可能性を感じていて、わたしがそういう意見をクッションして、会社で何かを起こせるようになると良いなと思います。

北山さん:我々が言い続けないといけないと言うことですよね。毎回言うたびに大変な思いをしても。

志賀さん:長尾さんはいろいろ取り組まれていますよね?

長尾さん:はい。哲学対話もやっていますし、メルマガは2000人に配信しています。

松田さん:長尾さん、経営者にも本を紹介したりとかしていますよね。

長尾さん:そうです、宇沢先生(宇沢弘文:経済学者)の本も紹介しました。早速役員の方がダウンロードしたと報告しにきてくれたり。対話は各拠点の人を50名と一緒に4回くらい実施して、その人たちにも工場に帰ってまた対話をしてもらうというのを順繰りやっています。大変ではありますが、話していると自分たちで考え始めて、話している人たちの頭の中が変わってきていることを感じて、安易に答えを出さないというのはこういうことなんだなと実感しましたね。私は工場出身なので、これを営業部門に展開するには少し壁を感じていますが、役員は応援してくれているので、やらないといけないですね。また、私は多様性のことにも関わっていますが、みんな比率何%?という話になってしまうのが現状です。ただ変化が見えると面白い。

北山さん:課題を設定して取り組まれているということですか?

長尾さん:数値的なものではありません。自分たちで考えてもらい、自分達でこういうことをやろうと決めてもらうようにしています。言われたことをやるのではなくて、自分たちが考えて行動することを変化として見えています。

松田さん:大きな変化は突然起こらなくて、小さな変化の累積ですよね。今回演習のチームでも感じたことなので、素直にかっこいいです。

長尾さん:ありがとうございます。メルマガで最初に載せたのは、インド哲学の丸井先生の講義でとりあげられていたセヴァン・カリス=スズキさんのリオデジャネイロでの講演の話題です。すごくいいスピーチだったので、メルマガに載せさせてもらったんです。そしたら全然会ったこともない人からメールをもらって、感動して泣きましたって。EMPに来れてよかったなと思いましたね。

北山さん:私は普段から人事の仕事をやっているので、昨今ジョブ型とかいろいろ言われていますが、ほんとうはどういう形がいいのかといま考えているんです。そのときに本田先生の講義にあった、戦後日本型循環モデルなどを常に意識しながらやっていて、結局責任をどこかに押し付けるのではなく、企業の人事で働く自分たちは何ができるのかと考えていく。みなさんとEMPの講義を受けて、これからはこんな世界にしていきたいと、自分なりに思い描いているものがあって、それを、SMBCで実現していきたい。ただ、やはりいろんな反響があるんですよね。人事を大きく変えようとすると、これまで培われた良いものが逆に失われるのではないか、といったネガティブな意見なんかも出てくる。私の場合、EMPで学んだいろんな講義が仕事に直接結びつけられているように感じています。ミドルマネジメントは結構、組織を動かす原動力になれたりすると思うので、私の世代で行かせてもらったのはとてもよかったと思います。

松田さん:僕は企業っていうビークルをどう動かすかっていうことを考えていて、企業内だけでは足りないので、外部の力を借りることも必要だと思います。たとえば環境に関する企業の取り組みなどを好事例として行政に取り上げてもらえれば、逆にその企業はもっと動かなきゃいけなくなる。重たい石は最初は動かないけど、一度動き始めれば急に軽くなる瞬間があって、そこをやることが僕の役割なのかなと思います。さらに、自社がやったら、自社だけでなく同じ業界の人たちも追従しなくてはならなくなるので、業界全体にも広げられると思うんです。今自分が目指したい方向に向かってこのビークルを使ってどう影響していくか、ステークホルダーのどこを動かせば最終的にここが変わるか、部内のメンバーともこの考えを共有して、目指したい世界とは何かというところからディスカッションを始めています。そして、課題図書も部内のメンバー全員に公開して、私が得てきた知見を私だけに閉じずになるべくいろんな人に共有できるようにしています。

西川さん:私はだいたい月に10社くらいの企業から投資の相談を受けますが、EMPに行く前は、彼らのビジネスがどのくらいのマーケットサイズになるかと、私がその事業を好きかどうかを見ていました。だけど今は、そこに加えて社会の問題を解決できるのかということがすごく気になるようになりました。先日、日本の作家さんの皿を越境ECで売りたいっていう話があって、それは古くからある釜でお年寄りとかが作っているものも含めて、いいものを海外に出したいっていうものだったんです。日本にとって非常に良いことですが、利鞘は少ない。おそらくこれにはVCは投資できないんです。でもそういうものにこそエンジェル投資家は投資するべきだろうと思って、最近は誰でも投資したそうな、明らかに儲かりそうなものではないものに投資しようとマインドが変わりました。

志賀さん:ポトラッチですね。

西川さん:そうそう、それで失敗しても彼らはもう一回やればいい。今までは儲かりそうな案件の情報が早く欲しかったのですが、でもそれは他の人が投資すればいいから、と興味がなくなりました。完全に変わりましたね。

■今後のEMPに求められる変化に関して

長尾さん:直近で宇野先生のモデレーターを務めた際に、民主主義の話題になりました。多くの人が選挙にしか関われないから政治がかわらないと思ってしまうけれど、そもそも、自分が関わっていかないと、それは民主主義じゃないよねとおっしゃっていて、強く共感しました。

松田さん: EMP全体の風潮として政府に対する不満がでる場面がありましたね。それはやはりアカデミア中心になっていることが原因なのかもしれません。どちらかというと、枠組みを考える側と、実行する側っていうふうに盲目的に二項対立になってしまっているのかもしれない。そこに事業側の人は、敏感に違和感を感じるかもしれない。もちろんEMPに没入してみれば、それで得られるものも大きいのですが、やはり最後に二項対立になっている感じがする。頼住先生(頼住光子:倫理学者)がおっしゃっていた共生の概念からいえば、包摂的な要素、全体の中の要素なのであって、対立にはなってないはずなのですが。この部分が、EMPがもう一段進化を求められているのかもしれません。

西川さん:運営側と実行側でもやはり折り合い・妥協のようなものはあるかもしれませんね。

松田さん:アカデミア出身ではない方も運営陣にはおられますよね?そういう使命を帯びていらっしゃるのでしょうか?しかし運営陣の方々はほとんどボランティアのようなお立場と聞いています。そうなると本当にサスティナブルなのか?って思ってしまう。

西川さん: 次の世代となったときに不安が残りますね。お一人になにかが起きた時に、分担してなんとかなったとしてもクオリティーを保つのは難しい。

北山さん:執行部や事務局に一騎当千の方々が揃っているので、逆に個人の力量でどうにか回している部分も見られるので、EMPという唯一無二の「場」を提供しながら、この素晴らしい「場」を維持・発展させていくために如何にサステナブルな運営を続けていけるか。よく組織にも見られるのですが、初期メンバーがもっていた熱量を次の世代が受け継げないようなことになってほしくないですね。だから敢えて人事部目線で申し上げるなら、サクセッションプランは必要でしょうね。

松田さん:EMPは永遠のベータ版ですが、世代を超えて変化するときに、注意しないと表面をなぞるように変えてしまうこともあるかもしれませんからね。少なくとも5年たったら今の事務局の形のままではいられないと思うので。

志賀さん:ただしEMP自体は東京大学という組織における一事業なので、その事業の中でサクセッションプランをつくることはあるべき姿ですよね。修了生がEMPへの思いだけで運営自体に関わっていくことは難しいので。

西川さん:優秀な人を雇用して回していく必要はあるのかもしれませんね。

長尾さん:もう一つ、EMPにはすでに素晴らしい歴史が存在しています。たとえば宇沢先生にすごく興味をもって本も読んでいましたが、実は4期に宇沢先生が講義をされていて、その講義を聞かせていただいて、すごく感動しました。だからそういう歴史をきちんと繋いでいくことも必要なのではないかと思います。これは修了生のコミュニティーなどですかね。

西川さん:2金会などの会も楽しく飲む会としていいですね。それとは別に飲み会ではなくて目的をおいたような別の集まりがあってもいいかもしれない。飲み会となるとくることができるメンバーが固定してしまっているかもしれないし。

志賀さん:先日の5金会はそういった意味ではすごくよかったですよ。

松田さん:これから5金会の幹事をやることになったので、さらによいものを目指したいですね。

西川さん:EMPの修了生の中には、そういったコミュニティーに来にくいと感じる人もいるようなので、飲み会ではない場で、同じメンバーだけにならないように切り口を変えることも良いかもしれませんね。座談会も業種別とかで行って、本日のような話題を話してもいいかもしれない。

みなさん:そうですね。

※:第2金曜、第5金曜に開催される修了生の懇親の会。


長尾 祥浩
AGC株式会社

志賀 未雪
三井物産株式会社

北山 剛
株式会社三井住友銀行

西川 順
franky株式会社
エンジェル投資家

松田 周作
富士フイルム
ホールディングス株式会社

カメラ・記事


⼩笠原 弘樹
画家・デザイナー

会場

都内 西川さん宅


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