EMP 27期 修了生座談会

座談会シリーズ第一回目は、2023年3⽉11⽇にEMPを修了した27期生の⽅々に、印象に残った講義、EMPを通じて得たものなど、率直な感想を語り合っていただきました。

印象的だった講義―問いを深めることで⾒えてくる未知―

―本⽇は宜しくお願いします。早速ですが、初めに皆さんにとって印象的だった講義についてお話しをお聞かせ願えますか?

⽩井:神野先⽣の講義が印象深かったですね。神野先⽣は、仕事では雲の上の方で、そうした神野先生が、普段、ご⾃⾝の視点でお考えになっていること、財政学の視点から見るいまの社会、特に教育について財政学の視点から見た未来の在り方についてのお考えをお聞きできたことは、神野先生のお人柄も含めて、背筋が伸びるというか、身震いするような感覚でした。
屋敷:そうですね。神野先⽣の財政学から⾒た社会、財政がこうなっているから社会がこうなっているという観点はとても⾯⽩かったですね。
市川:神野先⽣は知の統合演習のヒアリングで 2 時間を超えてお付き合いくださいまし た。先⽣の観点・話題の豊富さ、知識の埋蔵量には圧倒されました。
屋敷:講義の質問に対して、A4で6枚にわたって回答くださったり、モデレーターの事前打ち合わせで4時間お話しをされたともお聞きしています。⼤変熱意のある先⽣ですよね。
屋敷:⿅渡さんはどんな講義が印象に残っていますか?
⿅渡:たくさんの先⽣が思い浮かびますね。橋⽖先⽣のプラネタリーヘルスのご講義では、健康増進の観点からのベネフィットを示すことで、CO2 排出抑制にも資するというコベネフィットの考え方をご紹介いただきました。これは⾏動経済学的な考え方であり、私は環境に関する話題にも関心があるので、大変興味深く聞かせていただきました。
また、⼩野塚先⽣も印象深かったです。例えば、最初のご講義の課題本『経済史:いまを知り、未来を⽣きるために』では、産業⾰命やブレトン・ウッズ体制、ブラザ合意等、経済史の授業で扱う事柄だけでなく、文化学的な観点からも考察されておりました。持続可能な人口やCO2排出抑制を実現するため、今後3世紀以上の時間をかけて産業革命前の状態に戻す必要があるのではないかという考え方は、センセーショナルで刺激的なものでした。現在や未来を考えるために、過去の歴史に学ぶことの大切さを繰り返し説かれていたことが印象に残りました。
屋敷:⼩野塚先⽣といえば「際限のない欲望」というフレーズがとても印象に残っています。
「考えるために書く」の時も「もっとちゃんと過去を⾒なさい」と振り返ることの重要性について常々考えさせられました。あとはカタカナ⽂字を使わない、カタカナに逃げない。 EMP の思想を⼀番理解していらっしゃる先⽣なのかもしれませんね。ご⾃⾝は「考えるために書く」は苦⼿とおっしゃっていましたが。
⽩井:⼩野塚先⽣からは「考えるために書く」の書き⽅のフレームも教えていただいたように思います。
市川:私は森林と林業の講義ですね。林業が衰退していく、⽊材が安価に扱われる、環境なども押さえたご講義を踏まえて、⽊材、林業について今後どうしていくかディベートをしたと思うのですが、⼭梨さんが、そもそも林業をどうするかではなくて、綺麗にして⽇本を観光資源化できないか?とおっしゃった際に、そういう発想があるのかと驚きました。⼀旦⽴ち⽌まってみて考え⽅を切り替えるという、EMP の中での学びだったようにおもいます。
⿅渡:私もあの講義で初めて知ったのですが、⽇本のスギの⽊は水分が多いため建材に向かないというご説明は意外でした。⽇本にはこれだけ森林資源があるのだから、デベロッパーやハウスメーカー等による建材としての利⽤⼿段があるのではないかと思っていたのですが、スウェーデンには到底敵わないといった話がありましたね。
市川:屋敷さんはどうですか?
屋敷:私は特定の講義というよりは、これまで学ぶことがなかった哲学や宗教の講義でしょうか。それぞれの国の思想・バックグラウンド、たとえば中国は元々こういった考え⽅だったから今こうなっているとか、ヨーロッパはこういう歴史を経て今こうなっているなど、思想+国という形を理解できるようになってきたように思います。そして⽇本にはそういった思想がもともとなかったという話が印象深くて、今⽇本が進む⽅向性を⾒失っているのは思想の⽋如が関係しているのかなと、全体を通して感じました。
そして、座禅の公案はとても良い経験でしたね。ネット検索をして答えを⾒つけることが世の中の当たり前になっている中で、考えても答えが出ないことをひたすら 1 週間⾃分の頭で考えるという、思考とはこういうことなのかと実感させられました。
⿅渡:座禅もそうですが、宗教も世界観といったものだけではなく、論理の積み上げの上に成り⽴っているんだなと感じ、その点が興味深かったですね。
屋敷:おそらく公案は正解かどうかではなくて考えるというプロセスに意味があったのではないかと思うのです。⽇々の仕事ではここまで時間をつかって考えることはほとんどない。どの仕事もそうですが、はやくアウトプットをと⾔われる世界ですからね。
市川:課題設定が⼤切だといわれ、問いを重ねるなかで、答えばかり探している⾃分がいて、皆さんはすぐ抜けられましたか?
屋敷:難しかったですね。感覚的にはわかるのですが。目の前に見えている課題をおけば裏返しで解決策になってしまう。設定する課題が重要なのであって、⽬の前の事象だけをとらえてつまらない課題を設定するなよと。岡村先⽣は解法を考えてから課題設定するのもありだと⾔われていましたよね?
⽩井:本当に慣れなかったですね。本を読む時も答えを探しながら読んでしまう。この⼈は何をいいたいのかを、どうすれば⼀番早く把握できるかという読み⽅をしてしまって。これも答えを探す癖だったのだろうなと思います。
⿅渡:⾃分で解決できる範囲・できる⼿段の中で答えを探そうとするから、本質的な解決につながらないということも実はあるのではないかと思いました。それこそ⼿段の⽬的化は、⽇頃の⽣活や仕事の中にもあるのかもしれない。そこに気づくきっかけになりました。
屋敷:⾃分で解決できる範囲の外、例えば政府がダメだという話題はよく出てきましたよね。でもそれでは思考はそこで止まってしまうので課題設定には⾄らない。例えば⼩野塚先⽣がよく⾔われていたように、「実現可能な」とか、「解法が⾒つかる」といった、もう⼀歩踏み込んだ粒度をみつけることがとても難しかったように思います。
⽩井:問いを 深めるという EMP の考え⽅について、それは具体的にどういうことなのか、もう少し言語化できたり、その意味を伝えられると良いのかもしれませんね。
屋敷:そうですね。EMP としても単発の授業の深い理解を⽬指すというよりは、あの講義でもこの講義でも同じ悩みはこの辺にあるな、という共通点が浮かんでくる感覚を得られたんですよね。修了後、部下からおすすめの本を⼆、三冊教えてくれと⾔われますが、数冊読んだところで EMP の感覚にはならないよねと思うんです。

統合という感覚−仕事では絶対に得られない体験

―統合というところが EMP にしかないという打ち出しだったわけですが、このあたりは皆さん感覚的につかむことができましたか?

屋敷:僕は個々の知識には執着しないという感覚はもてるようになりました。統合して考えることをどう使いこなせばいいかという感覚には⾃分⾃⾝⾏き着いてないかもしれません。
⿅渡
例えば、我々の知の統合演習のチームはCO2排出抑制について議論していましたが、最後には⾃然回帰や、地域活性化といった発想に⾄りました。これには様々な事象がつながっていて、異なる切り⼝で考えていく中で、⾃分達の考えを⾒つけていくことができるようになった、統合というのはそういうふうに解釈できるのかなと思います。⾃分の⾝の回りの感覚でしか物事を⾒ていなかったけれども、先⽣⽅の思考プロセスを追い、どのように課題を設定されたか、どのように取組につなげていったのかを体感する。それを繰り返すことで、⼀段上の視野から⾒ることができるようになるということではないかと思うのですが。
屋敷:私は知の統合演習を経験するまでタスクというものはできるだけ早く進めたいと思っていたんです。でも、同じチームになったメンバーの⼀⼈はすぐに進まず、すごくしっかり考える。こんな⼈がいるのだなと驚きました。そして⾃分と全くちがう思考プロセスの⼈と⼀緒に考えることに、すごくダイバーシティの価値というのを感じたんですね。最初の⽇本国の国家戦略⽴案もその⽅と⼀緒だったので、この⼈と知の統合演習やったらとても⾯⽩いだろうとおもっていました。講義もそうなのですが、受講⽣の感性・感覚っていうのが統合するという意味でもすごく⾯⽩いと思いました。
⿅渡:たしかに、我々のバックグラウンドが多様であるということも⼤事だったのかもしれませんね。多様なメンバーで⾏われた知の統合演習は本当に⼤変でしたが、充実した議論ができました。
⽩井:本当にあんなに考える、考え抜く、悩むことっていうのはこれまでになかったですよね。ぼんやり思うことはあっても、こういう真⾯⽬な課題に一定期間向き合うことはなかなかないことで、すごく⾯⽩かったです。チームでの知の統合演習は、なぜあんなに頑張れたのかわからないくらいはまりましたね。
屋敷:そうですね。あの時って本を読んで、その中でこういうことを⾔っていたよというだけじゃダメで。いろんな情報を組み合わせて、新しいものを思考するという感覚があるじゃないですか。普段ならそこまで考えない、頑張らないと思うんですね。こだわってこだわってすぐに答えを出さないというのが⾟かったのですが、最後にやりきって楽しいと思えました。
⿅渡:我々もそのような傾向がありました。当初は全体の⽅向性やイメージをゴールセットして進もうとしていた。しかし、途中で何度もそれがひっくり返って、いろいろ試⾏錯誤した。我々のチームにも、議論をリードして進めつつ、うまく転換してくださるメンバーがいらっしゃいました。それがとてもいい試⾏錯誤につながったのかもしれません。
⽩井:他のチームでどんなだったかもとても興味深い。知りたいですね。
屋敷:うちのチームは本当に終わるかどうかわからず、どうなることかと⼼配しました。しかし、課題設定で⾔うと「何々できるのか」というふうに置いてしまうと、私たちはすぐに解法の⽅に向かってしまう。How よりも Why という⽅向に問うた⽅が話に広がりが出るというふうに思ったんですよね。Why で広げることも切り⼝を探す上で重要で、深掘りを繰り返して本質にたどり着くような気がします。
⿅渡:確かに⾃分ができる範囲だけで考えていくと、本当はできるのに、それができないという前提で可能性を狭めてしまうと思います。そこを押し広げてくれるようなことだったのかもしれませんね。
屋敷:仕事では絶対に得られない感覚ですよね。
市川:今の業務で EMP で⾃分が学んだことが役に⽴つ場⾯はみなさん経験されましたか?
屋敷:例えば部下に対しての話し⽅とか、物事の進めかたなどは変わったように思います。ちょうど EMP の最中に、部下が⽂章を書く業務があって、それは何が新しいのか、何が尖っているのか、世の中にとって新しいことは何か?とすごく厳しく対応してしまったことがありましたね。⼀時期 EMP モードに⼊りすぎていました。そんなことは過去には⾔わなかったのですが。
⽩井:たしかに課題設定というのが、個性というか、新規性・過去に誰も考えていないか、ということを⼤切にしていましたもんね。考えるために書くでもそこを重んじていた。
⿅渡:私も考え⽅の広がりという部分で変化があったように思います。例えば、私は今後の⼈⼝減少に伴う国内市場の縮小に備えて、企業の海外展開の促進に携わっています。しかし、企業にとって海外展開は一つの手段でしかなく、国内では異なる切り口から取り組んでいるので、何が企業の方々のためになるのか、改めて意識しなければならないと考えるようになりました。⾃分の業務範囲以外にも世の中には様々な事象があるわけで、全体における⾃分の立ち位置を考えられる。物事を考える範囲を広げてもらったのではないかと思います。
屋敷:⽬的と⼿段ですね。私はコンサルという仕事がら、例えば海外売上⽐率を 50%にしたいという企業からの相談を受けることがあります。しかし、それは⼿段であって、⽬的ってもっと先にあるのではないかって思うんですよね。じゃあ従業員の雇⽤を守るとなった時に、それも何のために?って、もっともっと深めることができる。そういった思考みたいなものは EMP で体験できたことだと思います。
⿅渡:そうですね。⾃分の仕事上でも、これまでとは違う切り⼝からの提案をできたのではないかなとか、そういう考えがあってもいいのではないかなと思うようになりましたね。
市川:私のもともとのモットーとして「凡事徹底」、当たり前のことを当たり前にやるということがあるのですが、EMP に⾏ってから「当たり前のことが当たり前なのか」と常に問うようになりました。それを部下に⾔ったらなんか変わりましたねって⾔われましたね。今まで、「これといえばこうやる」みたいなやり⽅っていうのがあるじゃないですか。そうじゃなくて、⼀回⽴ち⽌まって考える。EMP が⽣きていると思うんです。
屋敷:テクニカルなことというよりは態度とか考え⽅っていうものに対してすごく影響があったように感じます。

体験の共有を通じて得たつながり−唯⼀無⼆の信頼関係−

―それでは⼈脈という⾯で、仕事上役に⽴った経験はありますか?EMPを経験していない⽅々にとって、EMPを修了された皆様のメンバーリストは魅⼒的に⾒えると思うのですが。

⿅渡:この年になると、仕事以外で他の業界の⽅々とお付き合いできる可能性は少しずつ下がってくるので、横のつながりができたことはとても貴重だったと感じますね。
⽩井:そうですね。絶対、EMPがなければ仲良くなれなかっただろう⽅々と仲良くなれたというのが⼤きいです。普段であれば組織を通じてしかお話しできない⼈たちと、ほんと、何の利害も評価もない状態で議論をできたっていうのが素晴らしかったですね。この経験は職場でも、職場を超えてでも難しい経験だったと思います。今⽇だってこんな会場で皆さんと話ができるわけですし。
屋敷:例えばあのリストの⼈たちが、今⽇飲みましょうって⾔いあったとしても、EMPがなければ絶対こういう関係にはならないわけじゃないですか。浅いリレーションではないですよね。僕はコンサルなので、営業かけようと思えばとてもいいリストなわけですけれど、そう使おうとは全く思わない。いつか仕事でたまたま会うことがあれば、その時にはすでにお互いを助け合える関係性ができているんじゃないでしょうか?それが⼤きいと思います。
⽩井:知の統合演習でも私たちの最後のテーマだったのですが、直接体験する・体験を共有するってすごく⼤事だなと思っています。しかも、ゴルフとかの趣味の時間を共有するのではなく、「考える」っていう体験を共有したっていうのが、良い形の深い⼈間関係につながっているんだと思います。
⿅渡:共通の体験を持っていることは、⼈間関係を強固にするのかもしれませんね。
屋敷:EMPの修了⽣の⽅々も、知の統合演習のテーマを話し合った時間はすごく貴重だったのではないでしょうか。それぞれのバックグラウンドで考えていることを持ち寄って、その上でテーマを⼀つ決める。普通に四⼈集まって飲み会でこんな話してる⼈って絶対にいないですよね。年末の忙しい時に。
⿅渡:世界中探しても唯⼀無⼆かもしれませんね。
小笠原:私たちが経験した6ヶ⽉間は、得難い関係性を⽣んだわけですね。⼀⽅で、これまでに500名以上の修了⽣がおられ、その仲間⼊りのための試練であるとのお話もありました。私たちはまだ縦の繋がりというのを知らないですね。縦の関係の魅⼒も発信していけたらなと思うのですが、新規受講者にとって魅⼒的な関係性とはどういうものなのでしょう。
⿅渡:先日、⼆〜三期前のEMP修了生とお話する機会があり、その際、仕事上のリンクがあることがわかり、私の職場にもお越しいただき、議論をさせていただくなど、つながりを持つことができました。
屋敷:よくEMP修了⽣を出していらっしゃるお客さんがいて、たまたま休憩室でであって、この前僕もEMPに⾏ったんですよって話せました。期によって違えど、修了⽣っていうだけでみんなあの経験に共感を持てる。信頼感みたいなものがあるんですよね。
⿅渡:同期はすごく仲良くなれましたね。⼀⽅でEMPは同期だけではなく、縦を重視していることも知っています。私たちの同期でも、縦のつながりを経験されている⽅は、会社の先輩後輩という感覚ではないと⾔っていましたが、他の期の⽅も含めてどういう形で縦のつながりを意識して展開していくかですよね。みんな忙しくてイベントには行きにくいですからね。
屋敷:⼀歩踏み出して、⼆⾦会やイベントに⾏けば体験できるのでしょうね。今回モデレーターを義務化したのも、修了して終わりではなく、つながりを定期的に持つという⽬的があったと聞いています。
⿅渡:モデレーターは業務の都合もあって結構つらいなと思っていたんですけれど、実際に参加してみると、⾃分⾃⾝にとってもよい経験でした。久しぶりに⾏ってみると楽しかったんですよね。
屋敷:義務としてやるのか、楽しいと思ってやるのかですね。私は楽しいと思ってやりたい。時間的な厳しさという現実問題はありますが。
小笠原:楽しさ、⾃発的というのは⼤切ですね。年に何回もというわけではないのですが。私としては企業を退職した⾝として、社会との繋がりという意味でもとてもありがたいです。先⽇、PostEMPスクールで講師を務めましたが、受講者の⽴場に⽴つということの難しさ・素晴らしさを改めて体験する機会になりました。

より多くの⼈に魅⼒的なEMP−修了⽣による知の統合実習?−

―今後、より多くの⽅にEMPの真意を理解していただき、参加しやすい環境を作るためにはどうすれば良いと思いますか?講義のリストや、パンフレットを⾒て判断できずにいる⽅々の意思決定にプラスの影響があるような議論になればと思います。

⽩井:EMPを修了して、得たものって何ですか?と聞かれたときに、すぐにうまく言葉にできないもどかしさを感じています。それは「体験」であって、仕事に直接そのままの形で役に⽴つものというよりも、⼈間として「考える」経験をさせていただいたという感覚です。そういう体験が重なった6か月の時間の意味をどう伝えられるか、今後も考えたいと思います。
屋敷:まさに事前⾯談の折に、岡村先⽣と⼤橋先⽣に最後の質問として「このプログラムが終わった後に何が得られるのですか」と直接聞いたんです。当時はEMPの思想はわからないもので。すると⼤橋先⽣が「⾔語化はできないですね。強いて⾔うならば⼀流の教授が話される感覚・雰囲気というのを体感することに意味がある。それを屋敷さんが経験した上でどう思うかは⾃分で⾔語化してみてください」と⾔われました。
⿅渡:しいて⾔語化するのであれば、世界を広げてくれるということになるのでしょうか。チープな⾔い⽅になりますね。いま⾃分が⽣きている世界は全体のごく⼀部ですが、このEMPを通じて、時間をかけて多くのプロフェッショナルの着想を取り込んで押し広げる。でも、それだけではないことも私たちは感じているから⾔語化が難しい。
市川:私は最初⼩論⽂で⾷品ロス問題について書きました。家族でご飯を⾷べている時に息⼦たちとの話題にも上がっていたのでそういう話を書いたのですが、確か⼤橋先⽣に「君がEMPを卒業する時には、⼦どもでもわかりやすい⾔葉で教えられるようになることを⽬指してください」と⾔われたんですね。そして、⼟星の公案の時に私たちは相⼿になりきることを知ったわけです。つまり相⼿がわかるような感覚でないといけない。⼩野塚先⽣がよく貧富の差のことを取り上げられて、他の⼈の⽴場を⼤切にされるじゃないですか。そういうことなのかなって思ったんです。
⿅渡:相⼿がどんな⼈か、どういうふうに思っているのか。相⼿の⾝になって考えることが視野を広げる上で重要ということですよね。
小笠原:序盤の橋本先⽣のご講義でも、どの⽴場に⽴ってどの切り⼝で話すのかをすごく⼤切にされていましたね。今になって橋本先⽣に問い詰められた意味というのが垣間⾒えたような気持ちになりました。
屋敷:わたしも橋本先⽣のご指摘はとんでもなく的確だなと感じました。知の投稿演習で質問をした時にも「ちょっと待って、君たち、今⾃分で前提を置いたことに気づいた?」と聞かれたんですね。多分⾃分たちが当たり前だって思っていることに勝⼿に割り込んだっていう感覚なのだと思います。そこに⼊る前にもっと考えることがあるだろうというのをすごく的確に指摘されるんですよ。
⽩井:橋本先⽣からは、考えるときにも、⾔葉にするときにも、すべてに「なぜ」を重ねてそれを精緻に組み⽴てていくことの大切さのようなものも教えていただきました。実際に対⾯で、⽬の前で、橋本先⽣から問われた経験やそこで体得したことはとても大きかったと感じています。講義を聞くだけ、⽂章を⾒て認識するだけとはまったく違います。すごい⼈に、本気で向き合っていただいた。そういう問いをどんどんどんどん重ねて、考える機会をいただけるというのはすごい体験でしたね。
小笠原:先⽣⽅には本当に⼤きな影響を与えていただきましたね。私は⼩林先⽣チームだったのですが、先⽣のパッションにはすごく影響を受けました。「⼈⽣の岐路に⽴って、判断を誤り、後悔された経験はありますか?」とお聞きしたら、「岐路に⽴つというよりも、それ以前に僕は⾏動している」っておっしゃった。
屋敷:確かに考えるために書くの⼩林先⽣のチームメンバーは、北九州に⾶んだり、古美術商のかたに⾯談したり、とにかく現場主義っていうイメージがありましたね。やってみないとわからない。EMP⾃体が頭で考えるとともに体験するっていうのを重んじているっていうことですよね。
⽩井:たしかに、EMPはもっと体験というのを押し出してもいいと思います。
小笠原:もっと体験に寄せたカリキュラムというのはあり得ましたかね?船にのせていただくとか。
⿅渡:そうですね。私たちが無意識にホワイトカラー目線からの考え方をしていると、講師からよく⾔われたじゃないですか。じゃあ、もっとブルーカラー的な現場を体験して、互いの考え⽅を知り合う機会があっても良いのではないかと思います。EMPはいろんな視野が得られる⼀⽅で、もしかしたら偏っている可能性もある。もっと他の世界もあるのではないかなと。
⽩井:梶⾕先⽣が名古屋でぬいぐるみを着てっていう取り組みがあったじゃないですか。ああいったことこそ、私たちがやってもいいんじゃないかって思いました。
屋敷:最後のアンケートで、受講⽣の半分にマイノリティーと呼ばれる⽅々が⼊れるようにできないかと提案しました。ダイバーシティーの豊富な中で⼀緒にディスカッションすることで、もっと社会課題が浮き彫りになるんじゃないかと。もちろん受講料の問題はあると思いますが。
⿅渡:仮に受講者としては難しかったとしても、講師をしていただくことはできるかもしれませんよね。
⽩井:逆にどういう⼈にEMPが向いていると思いますか?私はむしろ、この、⾔語化しにくいことに投資することを批判的に思うような⼈こそ、EMPを体験してほしいと思っています。
⿅渡:ジェネラリストよりも、思いっきり専⾨的に突き抜けた⼈の⽅が、他の受講者との化学反応が⽣まれる可能性が⾼まったり、本⼈にとっても世界が広がったりして、⾯⽩いのではないかと思います。
小笠原:そうですね。個⼈の変化が他の受講者と共に得た体験によって起きたのであれば、ワンマン社⻑や、⼀匹狼じゃないと何かできなかったような⼈にこそ意味があるのかもしれませんね。
⽩井:ところで⼀つ⼀つの講義内容を深く理解することを⽬的とする⽅もおられるかもしれませんよね。⼀⽅でEMPが重きを置くのは思考プロセスであり、それらを統合していく感覚の部分なのでそこにギャップを感じるかもしれません。
⿅渡:専⾨知識や最新の知見を得ることを⽬的とする方は、最初は噛み合わないかもしれませんね。知の統合演習を通じて、そのような⽅々がどのように考え⽅を変えうるか。
屋敷:そうですね。知の統合演習でそういうニーズを持った⽅との共同作業はダイバーシティという意味で相互の良い体験になるかもしれません。⼀⽅で相互を受け⼊れる素養がある⼈じゃないと。何の役にも⽴たないかもしれない。そこにある意味を⾒出すことができる、何か得ようと考えられる⼈だけが得るものがあるのではないかなと思うわけです。
市川:EMPはブランド的にはどうでしょうか。MBAとかもそうだと思うのですが、例えば⾃費で参加する⽅はステータス、ストラテジーというか。⾃分の強みにするという観点で魅⼒的でしょうか?
屋敷:ブランドという意味で⾔えば。MBAの⽅が⾔いやすいのかもしれないですね。EMPは資格ではないし知名度が⾼いわけでもないじゃないですか?ブランドを⽬的で来るというよりは中⾝で来る⼈の⽅が多いのではないでしょうか。履歴書に書く⼈もいれば書かない⼈もいると思います。
⽩井:誰かが受講したきっかけを話している記事に、「⾃分を発⾒したかった」とか、「全く新しい考え⽅や全然違う世界を知りたい」ということがあったと思ですけれども、そういう考え⽅であればブラックボックスでも楽しめるのかもしれません。逆に、⽬的がはっきりしていると、開けた箱が、あれ違ったとなるかもしれません。
小笠原:最初は誰もがとまどいを経験するかもしれないですね。どうやって仕事に⽣かすかという思考になって悩んだりもしました。パンフレットの真意を最初から理解してというのは難しかったかもしれないですね。パンフレットのあり⽅は正しいのでしょうか?
⽩井:でも、修了してみれば、一周まわって、パンフレットの内容が合っているというのもわかります。
屋敷:⼊る前に理解しきれないっていうのはあると思うんですよね。
⽩井:バンジージャンプみたいなものですかね?
⿅渡:確かにそう考えると、⾃費で受講する⼈は、確固たる知識や知⾒を求めてしまうかもしれないですよね。⾃費か会社負担かで、⼤きく違ってくるかもしれませんね。
屋敷:⽇本のリーダーになるような⼈たちっていうのがターゲットなわけですよね。EMPを作った横⼭さんは社会システムデザインをここでやりたかったけど、それはできなかったとおっしゃいましたが、⼀⽅で問いを深める新しい思考法というのはEMPの中に根付いていると思います。本当は集まったメンバーで実際に社会を変えるようなことをやりたかったのですよね。
⿅渡:世の中に存在する縦割りのしがらみを越えて、コラボレーションができる考え⽅をEMPで学んで共有し、さらにそれを実⽤化していく。今の世の中のセクショナリズムでは、セクションで分断されて適切な解が出せない。横⼭さんがやりたかったことにそういう考えがあったならば、EMP的な考え方が基礎としてなければその先に進めないのかもしれないですね。
小笠原:最初に国家戦略⽴案の課題をやったじゃないですか。それを修了⽣が期の壁を越えて、⼤⼈数でやる。実際に⽇本を変えていこうみたいな動きが出てきたら、EMPそのものの魅⼒になりますかね。知の統合演習をもう⼀回やるみたいな。
屋敷:知の統合“演習”ではなくて“実践”ですよね。本当にEMPのネットワークを使ってやるっていうのを。30期とか何かの機にみんなでやっても良いかもしれませんね。
⿅渡:修了⽣の中には、いまやハイポジションに立っている⽅もおられるわけで、実際にEMPの思想を知った上でセクショナリズムを打ち壊すことができるような力を持っている状態だと思うんですね。横⼭さんはそういった状態を待っていらっしゃるのかもしれないですね。
⽩井:本当に梶⾕先⽣のように名古屋にみんなで⾏って着ぐるみを着るとか、NPO的な活動があってもいいかもしれないですね。すでに起きていてもおかしくない感じもします。
小笠原:EMPowerの中にも対話や個々のご活躍・成功の記事は多く⾒かけるように思いますが、期を超えてみんなでネットワークして、何かEMPの卒業⽣がみんなで世の中に認知される成果を出したと⾔えば、EMPの魅⼒につながるかもしれないですね。⾃発的にみんなが夢中になってやれることとして。
皆さん:本当にそれができたらいいですね。


【 登壇者プロフィール 】

市川 健
三菱地所株式会社

⿅渡 寛
国⼟交通省

⽩井 美由紀
⽂部科学省

屋敷 信彦
PwC コンサルティング合同会社

カメラ・記事

⼩笠原 弘樹
画家・デザイナー

会場

⼤⼿町パークビルディング


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