先生のおすすめ書籍

  • 藤原 帰一
  • 2023年3月11日現在
    東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
  • 東京大学で国際政治と比較政治を教えてきました。EMPの講義では冷戦後の世界の変化を捉えるために、ポピュリズムとデモクラシーとか、権力移行と米中競合などの課題についてお話ししてきました。重要なのは何を考えるべきか、福沢諭吉でいえば議論の本位を立てることですね。ですから知識を伝えるよりも問題の所在をつかまえることが大切なのですが、そこは放っておいても問題を提起せずにはいられない皆さんのこと、打てば響く、いや、打つ前に響き渡るような議論になる。お話しする側も多くを学ぶことができました。

おすすめ書籍一覧

  • タイトル:夢遊病者たち ―第一次世界大戦はいかにして始まったか
    〇クリストファー・クラーク(著) 小原淳(訳) みすず書房

    第一次世界大戦について書かれた数多い本のなかで第一に読むべきものです。戦争が起こることは予想されており、各国ともその準備を進めていたのですが、どの国も、戦争が始まっても短期間で終わるだろう、長期にわたる破滅的な戦争には発展しないだろうと考えていた。
    著者のクラークの描く、各国が夢遊病にかかったかのように戦争へと引き寄せられてゆく過程は、米ロ関係と米中関係が緊迫するいま、恐ろしいリアリティを持って迫ってきます。
  • タイトル:アウシュヴィッツは終わらない これが人間か
    〇プリーモ・レーヴィ(著) 竹山博英(訳) 朝日新聞出版

    第二次世界大戦の喚起するイメージのなかでも中核的なものは、戦場での殺戮よりもユダヤ人に対する迫害と虐殺でしょう。国家の主導によってある集団の人権が奪われ、強制的に収容され、さらに収容所で組織的に虐殺されてしまう。プリーモ・レーヴィはアウシュビッツ強制収用所に送られながら生き延びた少ない生存者の一人でした。
    その経験を綴ったこの本を読むとき、人間の存在は何かを考えずにはいられないでしょう。ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』も合わせてお読みください。
  • タイトル:戦争は女の顔をしていない
    〇スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(著) 三浦みどり(訳) 岩波書店

    戦争経験は男性によって語られることが多く、女性は登場しても主体というよりは客体として描かれるのが一般的でした。戦時性暴力が戦争犯罪として捉えられるまでに多くの時間がかかったように、語り手の限定は語られる戦争の限定につながります。後にノーベル文学賞を受賞したアレクシエーヴィチはこの限定を取り払い、厖大な数の女性から聞き取りを行い、その生の声によって女性から見た戦争を描きました。戦争による喪失の悲しみが、戦争に加わった喜びとか敵への激烈な復讐感情など、単純化を拒む多様な声として響き合っています。
  • 戦争の文化(上・下)
    〇ジョン・W.ダワー(著) 三浦陽一(訳) 岩波書店

    日米戦争に関する研究は思いの外に限られていますが、そのなかでお勧めしたい歴史家がジョン・ダワーの作品です。人種偏見から日米戦争を捉えた『容赦なき戦争』も連合国占領を日本社会がどう受け止めたのかを描いた『敗北を抱きしめて』もともに網羅的な視点と丹念な論証によって群を抜いた傑作ですが、最初に読むものとしてご推薦したいのがこの本です。ダワーはアメリカ人でありながらアメリカ社会で当たり前とされる視点から客観的な距離を置き、それによって日米戦争からイラク戦争に至る戦争と文化の結びつきを描くことに成功しました。
  • 国際共同研究 ヒロシマの時代―原爆投下が変えた世界
    〇マイケル・D.ゴーディン/ G.ジョン・アイケンベリー(編) 藤原帰一・向和歌奈(監訳) 岩波書店

    最後は私も関わった共同研究の成果です。広島と長崎への原爆投下は世界を変えてしまったと私たちは普通にいいますが、では何から何へと変わったのか。核兵器は国際政治をどのように変えたのか。ロシアのウクライナ侵攻を前に改めて問われる課題ですが、この本は専門家が核革命といま呼んでいる原爆投下後の世界について、世界各地の変化を、しかも歴史学と国際政治学の両面から捉えようとしたグローバル・ヒストリーの試みです。巨大で高価な研究書ですが、ぜひご一読ください。

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