修了生インタビュー

  • 林賢太郎
  • 2022年11月現在
    日本電信電話株式会社 技術企画部門 担当課長

カオスな時代のサバイバルスキルを得るために

令和元年東日本台風が記録的な大雨をもたらし甚大な被害が発生した時と同じくしてEMPの22期は開講となった。
毎週金曜日に会社を休み東大の講義を受ける不安と若干の後ろめたさ、講義毎に出る膨大な課題図書を読まなければいけないプレッシャー、多様な分野で活躍する多彩な人材との出会いの期待を胸に複雑な心境で赤門をくぐったことが今にも懐かしい。

実際に講義を受講してみると、自分のこれまでの人生経験が如何に狭く偏っていたかを痛感させられた。
如何に自分が無知であるか。更に言うと“I don’t know what I don’t know.” 何を知らないかさえ分かっていなかった。
正直、講義によっては紹介される最先端技術の効果や有用性以前に基本原理が全く理解できない場面もたまにはあった。(EMPでは「つるつるの壁を掴む」感じと比喩されている。)
しかし、受講を重ねるにつれ無知にも慣れ未知の領域への恐怖がなくなり耐性が出来てくる。

実際、当時のある日の講義スケジュールを記載してみる。

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2019/12/20

1限目:医療・健康科学~がんのウイルス療法の臨床開発~
2限目:中国の政治外交と日本~中国政治、中国外交、日中関係~
3限目:量子情報物理~量子コンピューターと量子テレポーテーション~
4限目:西欧的思考の原型~実存から構造へ、構造から脱構築へ、脱構築からどこへ?~
5限目:Communication Skills Workshop
~Assessing Energy Security and Policy in President Trump’s Administration~

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既存のがん治療用ウイルスに比べて安全性と治療効果が格段に高い三重変異を有する第三世代のがん治療用HSV-1(G47Δ)の臨床試験の最新状況とウイルス療法の展望の講義の後に、中国が外交上強硬姿勢を強めている事情を中国の内政や安全保障政策から解説頂き日本の東アジア政策の在り方をクラス全員でディスカッション、ランチタイムを挟み1965年にリチャード・P・ファインマンがノーベル物理学賞を受賞した量子コンピューターに関して多数量子ビット並列で連続的かつ無制限に量子演算をし続けることができる量子テレポーテーションの手法について議論、4限目に(かなり頭から煙が出てきたところで)哲学の講義。
20世紀の西欧哲学の流れを学び、帰趨を外観しつつ改めて「「⼈間」という存在そのものの問い直し」を行うという、まさにカオスとしか表現のしようがない一日。
更にこれで終わらず5限目は英語の講義でトランプ政権のエネルギー安全保障政策の評価についてディスカッション。
・・・如何に、講義内容が多岐に渡るかお分かりになって頂けたかと思う。
(6限目として同期と本郷近くの餃子屋にてビール片手に傷を舐めあったのは言うまでもない)

修了して約2年が経過した。

EMPは半年間のプログラムで終了ではなくそこからがスタートであり、修了生が東大講師陣との相互交流を軸とした自発的な終身学習のプログラムである(修了後も様々なプログラムが開催されるが、その説明は他を参照)。
その意味では私もまだまだ大海原を漕ぎ始めた段階であるが、半年の講義を終えじわじわと思考能力の幅は広がり変化を感じたことを以下に挙げてみる。

1)「I don’t know what I don’t know.」から「無知の知」へ
圧倒的に多様な知に触れることにより自分が如何に井の中の蛙だったかを認識したことで、更なる知恵・教養の習得への貪欲さを得られる事が出来た。
些細な事かもしれないが新聞で目に入る欄が圧倒的に増え、本屋で手に取る本が増え(受講中はあれほど読書が嫌だったのに)、これまで聞き流していたニュースが気になるようになる。
この些細な事の繰り返しで世界が広がるのだ。

また記事の事実を表面的に捉えるのではなくその背景・構造的要因を思考する癖がつき、誰かに聞いてみたくなったり議論してみたくなったりして更に知的好奇心が搔き立てられ知のスパイラルアップへと繋がる。
また、EMPの経験からリベラルアーツとマネジメント、抽象と具体、マクロとミクロの自由な往来が少しは出来るようになったと感じる。
これは新規事業のブレストや、社内会議、他企業との打合せ時に場面により新たな視点を吹き込むことができ貢献を実感することが出来た。

2) 真の意味でのサイエンスリテラシーの重要性の認知
誤解を恐れずに言うと講義を受けて、時に最先端テクノロジーがなぜ広く認知され共有されていないのか(あるいは何故普及に時間を要しているのか)と疑問に思うこともあった。
アカデミックとしては価値が認知されてもその先の社会実装・インキュベーションはまた別の課題がある。
これは企業に属している自分も自社の研究所の技術からのシーズ型新規事業を苦慮した経験がある。プロモーター自身が技術の基本原理を理解するだけでなく、その有効さと限界とを知っていること、そして社会的目的のために用いることが出来ることが真の意味のサイエンスリテラシー(活用能力)であり、それには前提となる高度な言語能力・数学リテラシーも必要となる。
『最先端の科学技術で世の中はどう変わりつつあるか』を実感したために、1)で述べた知のスパイラルアップの鍛錬にも自然と力が入るようになった。

3) 自分が潜在的に持っている優れた資質に対する認識の強化
属している企業や昔の同窓などある種同質的なネットワークにいると気づかないが、EMP同期の起業家、経営者、大企業幹部、中央官僚、自治体職員、弁護士等のバックボーンが全く異なる多様なメンバーと議論している中で自然と周囲と自己との差異を認識しそこから自分の強みや資質が改めて見えてくる事があった。
EMPの目指す“唯一無二”の存在にはまだ程遠いかもしれないが、「自分なりの独自の存在感」というものもおぼろげながら見えてきた。

振り返ってみてEMPを経験していない自分を想像すると未だに“I don’t know what I don’t know.” 状態のままと考えると寒気すら感じてしまう。
40歳を過ぎて人生の大きな転換点であったと思う。

最後に、あまり偉そうな事は言えないが、よくある一般論のリーダーシップ論ではなくカオスな時代のサバイバルスキルを求めている人には東大EMPは唯一無二のプログラムであり是非ともおすすめしたい。
半年間のブートキャンプを経て入る第一線の研究者と修了生が集うソサエティは受講した人の人生をきっと色鮮やかにしてくれると思う。


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